トゥレット症候群という言葉を聞いたことはありますか?
トゥレット症候群は、小児期に発生する神経発達症の1つです。
ここでは、トゥレット症候群が何かということから、原因、発達障害との関係性、治療法、そして、本人も周りの人もトゥレット症候群とうまくつきあっていくにはどうしたらいいかまで、説明していきます。
トゥレット症候群って何だろう?
トゥレット症候群は、チックといわれる、客観的に見るとちょっと違和感を感じる動きや音声が1年以上に渡って続く症候群です。
トゥレット症候群が発症するのは18歳以下といわれています。
4歳から11歳頃に多く発症し、特に7歳前後が最も多く認められます。
大人になると改善していくことが多いですが、たまに成人してからも強いチック症状が残っている人もいます。
トゥレット症候群の症状、チック症とは?
まずは、トゥレット症候群の症状であるチックについて、詳しく解説していきます。
チック症について
チックとは、突如として現れ、素早く繰り返される運動または音声で、自分ではコントロールできない不随意運動です。
例えるならくしゃみが出るときに自然と出てしまうように、自分の意思では止められない症状です。
一年以内におさまってしまうチックは一過性チック症、一年以上続くと慢性チック症、そして一年以上続き、いくつもの運動チックと音声チックが生じている状態を、トゥレット症候群といいます。
どんな症状があるの?
チック症状の具体的な例としては、次のようなものがあります。
これらの症状は、単発ならば、日常の中で自然に起こりえるものです。
でもチック症状は、これらが不自然なタイミングで突然に、素早く何度も繰り返されます。
運動チック
- まばたきを繰り返す
- 鼻をヒクヒクさせる
- 顔を突然しかめる
- 首を大きく振る
- 口を開けたりまげたりする
- 腕や足を不自然に動かす
- お腹をヒクヒクさせる
音声チック
- 風邪でもないのに咳や咳払いをする
- 鼻やのどを鳴らす
- 「ア」や「オ」などと声をあげる
- あまり言ってはいけない汚い言葉を言うる
- 口を開けたりまげたりする
トゥレット症候群が起きる原因
トゥレット症候群の症状であるチックは、遺伝や環境が関係しているとも言われています。
しかし、親の育て方が悪かったり本人の性格や考え方に問題があって起きているわけではありません。
トゥレット症候群は心の病気ではなく、神経の病気です。
その原因についてはまだはっきりわかってはいませんが、大脳基底核(だいのうきていかく)という運動の調整に関わる部分などの脳内回路の異常や、ドーパミン系やセロトニン系などの神経伝達物質の異常が関係しているのではないかと考えられています。
トゥレット症候群と発達障害
トゥレット症候群には、発達障害のADHD(注意欠陥多動性障害)が併存症としてよくみられます。
発達障害以外でも、細かいことが病的に気になり、潔癖症や確認行為を繰り返してしまう病気の強迫性障害も、よくみられる併存症です。
他にも、不安や睡眠障害、抑うつ傾向や怒り発作などの精神面の問題や、学習障害や自閉症といった発達障害がみられることもあります。
トゥレット症候群の治療法
トゥレット症候群を根本的に完治させるような治療は、いまだにありません。
ですが、症状を軽減したりうまくつきあっていくために、症状に応じて次の4つの方法がとられています。
体質を正しく理解してもらえる環境を整えること
トゥレット症候群の症状はわかりやすく、周囲からただ変な人だと思われたり、わざとふざけているように思われてもおかしくありません。
そして、そんな周囲からの評価を気にして本人が無理に抑えようとしても、自分の意思では止められないのがチックです。
本人からすると、チックを止められない自分に嫌気がさし、どんどん自己肯定感を失ってしまう危険もあります。
まずは、本人を含めた周りの人たちに、この障害のことを正しく理解してもらうことが大切です。
そうして、本人がトゥレット症候群をもちながらも成長し、社会に適応できるように周りの人たちが支援していくことが求められます。
薬物療法
環境を整えるだけではどうにもならない時は、薬での治療になります。
たとえば、体が勝手に動いてしまってやりたいことできなくなってしまったり、あまりに大きい声が出て困ってしまい、日常生活に支障が出てしまっているような場合です。
薬物療法は、副作用の程度も考慮しながら、チックと、あわせて現れる他の障害や精神疾患などの症状のどこに困りごとが大きいのかを考え、適切な薬を選んでいきます。
行動療法
日本ではまだあまり一般的ではありませんが、ハビット・リバーサルという、チックと両立しないような動きを身につける方法などがあります。
ハビット・リバーサルは、チックのような行動をおこしてしまいそうになった時に、あえて全く逆の行動をさせるという治療法です。
例えば、まばたきをしたくなってしまう時に、一点をみつめてあえてまばたきをしないようにする、などです。
これにより、チックが減少して改善することもありますが、逆にチックを強く意識してしまい、症状が悪化してしまうこともありえます。
外科治療
どんな方法を使っても改善しない、難治性のトゥレット症候群ですと、外科治療を検討することもあります。
脳深部刺激療法(深部脳刺激療法)という、大脳基底核に電極を埋め込んで持続的に刺激をする方法です。
ただし、この手術は頭に穴をあけて脳の中に電極を入れるという、大がかりな手術です。
必然的にリスクも高くなりますし、行える施設も限られているため、どうしても他の方法では改善せず、日常生活にも大きな問題が生じている重症の方のみに検討されます。
子供のトゥレット症候群とうまくつきあっていくには
トゥレット症候群の症状であるチックは、多くの場合、大人になるにつれ軽くなっていきます。
ですが、軽くなるまでに時間がかかる人もいますし、良くなったり悪くなったりを繰り返したり、大人になってもチック症状が残り続ける人もいます。
チックがいつ軽くなるかは誰にもわかりませんので、トゥレット症候群とうまくつきあっていくことが必要です。
ここでは、どうやってトゥレット症候群とつきあっていったらいいかをお伝えします。
チックのパターンを把握する
チックには、いろいろなパターンがあります。
家でほっとすると出てしまう子もいれば、学校などで緊張していると出てしまう子もいます。
チックの種類も、運動チックだったり音声チックだったり、運動チックの中でも体のどの部分が動くかは様々です。
そういった自分のチックのパターンを知っておくと、本人も周りの人も、チックと付き合いやすくなります。
また、パターンは突然変わることもあります。
親御さんはよく子供の様子を見て、パターンの変化にも気づいてあげましょう。
チック症状の悪い面だけではなく良い面にも目を向ける
チックは一見、生活にも人間関係にも悪影響ばかりの困りごとのように思えてしまいます。
ですが、何事にも悪い面があれば良い面もあるものです。
たとえば、チックがある子は、細かいことがどうしても気になってしまって確認を繰り返し、なかなか前に進めないという特徴があります。
でもこれは裏を返せば、細かいところまで作業をきっちりやってくれるので、信頼して仕事を任せられるというその子の良さでもあります。
また、気がちりやすく、じっくり最後まで1つのことに取り組むのが苦手、という特徴もあります。
しかしこちらも、気がちりやすいということは常に色々な方向にアンテナを張っているということなので、他の人が思いつかなかったような斬新なアイディアを思いついたり、その気になったら1人でどんどん進んでいけるというその子の良さでもあります。
これはトゥレット症候群だけでなく、併存して現れる発達障害や精神疾患にも言えることですが、目が行きがちな困りごとだけではなく、その裏に潜むその子の良さ、長所に気づいて、良いところを伸ばして活かしていけるようにしてあげましょう。
まとめ
トゥレット症候群は、チックという自分の意思とは関係なく出てきてしまう特殊な動きや音声が、一年以上に渡って続く症候群です。
チックには運動チックと音声チックがあり、どちらも7歳前後で1番多くみられます。
トゥレット症候群は心の病気ではなく神経の病気で、脳内回路の異常や、ドーパミン系やセロトニン系などの神経伝達物質の異常が関係しているのではないかと言われています。
ただし、完治させる治療はないので、本人が過ごしやすい環境を整えたり、薬物療法や行動療法、稀に外科治療を使って症状を軽くしながらうまくつきあっていくことが望まれます。
本人のチックのパターンや、困りごとではない良い部分に目を向けながら、トゥレット症候群とうまく付き合っていくことが大切です。