そろそろ子供がほしいけど、今の自分の年齢での出産は「高齢出産」にあたるため、どんなリスクがあるか気になっていませんか?
日本では、35歳以上の初産婦が出産する場合を「高齢出産」と定義しています。
高齢出産は25~34歳までに出産する人よりも、さまざまなリスクが起こりやすいとされていますが、具体的な内容と起こる確率はどれくらいなのでしょうか。
ここではリスクの内容と、高齢出産でない場合に比べてどのくらいリスクが上がるかについて、医学誌のデータや著書を元に解説します。
リスクを低減させるために、妊娠前からできる対処法もご紹介するので、過剰に不安にならずに妊活をスタートさせましょう!
高齢出産のリスクは何?リスクが起きる割合も紹介
それではまず、高齢出産のリスクの具体的な内容と、高齢出産でない場合よりもどのくらいリスクが高まるのかについて見ていきましょう。
赤ちゃんの死産率や周産期死亡率が高まる
死産率とは「妊娠満12週以降の死児を出産する割合」、周産期死亡率とは「妊娠満22週以降の死産数と、生まれて間もない新生児の死亡数を足した割合」です。
厚生労働省のデータによると下のグラフのように、25~29歳で出産した場合の死産率は出生数1000件のうち2.4件であるのに対し、35歳以降になるとその割合は上昇します。
25~29歳の割合と比較して、35~39歳では約1.6倍、40~44歳では約2.6倍、45歳以上が約3.4倍まで増加するのです。
さらに25~29歳で出産した場合の周産期死亡率は、出生数1000件のうち3.3件と最も低く、死産率と同様に35歳から急激に上昇し始めます。
25~29歳と比べ、35~39歳では約1.5倍、40~44歳では約2.4倍、45歳以上で約2.8倍も増加するのです。
高齢出産となる35歳以上から、死産率や周産期死亡率が高まることがわかります。
妊産婦の死亡率も高くなる
日本婦人科医会のデータによると、妊娠中や出産で妊婦が死亡する確率は、25~29歳で出産した場合、出生数10万件のうち2.8件の割合となっています。
それに対して、35~39歳では約2.5倍、40歳以降になると約4.2倍に増加することがわかっています。
妊産婦の死因は、
- 妊娠・出産が直接的な原因である場合
- 妊娠・出産が間接的な原因である場合
- 偶発的に起きたことが原因である場合
に分けられていて、最近では「妊娠・出産が間接的な原因となって死亡する割合」が多い傾向があります。
妊娠・出産が直接的な原因となる死因には、
- 産後の出血
- 羊水が母体の血液中に入り込む「羊水塞栓」
などがあります。
妊娠・出産が間接的な原因となる死因には、
- 脳出血
- 心疾患
- 大血管疾患
などがあります。
年齢を重ねると血管の弾力性がなくなっていくため、血管がもろくなって出血しやすくなったり、出血量が多くなったりして死亡率が高まるのです。
染色体異常の発生率が高まる
卵子の老化は20代後半から始まり、40歳からスピードが速まることがわかっています。
卵子が老化すると遺伝情報をもつ染色体にダメージが蓄積されて、異常な染色体を持った卵子が多くなるのです。
すると、受精卵が着床しても育たずに流産してしまう確率が高まったり、ダウン症や胎児の先天的な異常や疾患が起きたりすることがわかっています。
流産率
日本産婦人科学会のデータから40代の流産率をみると、
- 40歳…35.1%
- 41歳…42.3%
- 42歳…46.5%
となっています。
40代になると、流産のリスクが上昇するスピードが速いことがわかります。
ダウン症の確率
アメリカの医学誌で発表された論文によると、子供がダウン症になる確率は、
- 20歳…約1700分の1
- 36歳…約300分の1
- 40歳…約100分の1
のように、確率が上がることがわかっています。
年と重ねると同時に、ダウン症の子供が生まれる確率は高まります。
しかし高齢出産ではない場合でも子供がダウン症になる確率はゼロではないため、年齢を気にしすぎないようにしましょう。
その他の染色体異常の確率
ダウン症以外に、何らかの染色体異常をもって子供が生まれてくる確率は、
- 20歳…約500分の1
- 36歳…約150分の1
- 440歳…で66分の1
と、確率がかなり高くなることがわかります。
30代後半から確率は高まりますが、高齢出産だからといって、子供が必ず障害を持って生まれてくるわけではありません。
またあくまでこの数値は計算した確率なので、自分もこの確率に当てはまるとは限らないのです。
不安になりすぎないようにしましょう。
卵子数の減少で妊娠率が下がる
排卵のたびに新しく卵子が作られるわけではなく、女性は生まれたときにはすでに一生分の卵子を持っていることを知っていますか?
一生分の卵子の中から毎月の排卵で1つずつ使っていくので、年齢とともに卵子の数は減少していきます。
卵子のもとは胎児の頃で約200万個あり、思春期に40万個、40代を超えると5000個以下にまで減ってしまうのです。
すると自然妊娠する確率は、30代後半で20%前後まで下がり、40代になると5%未満まで落ちるとされています。
体外受精の場合でも、出産できる確率は40歳で10%を切り、45歳ではわずか1%以下になるため、妊娠できても出産に至らないケースも多いのです。
分娩所要時間が長くなりやすい
高齢出産の年齢では、膣やその周辺が柔らかくなりづらく、子宮口が広がるまでに時間がかかる人が多くなります。
子宮口がなかなか開かず、母親が出産する体力がなくなってしまった場合や、母子の状態が良くない場合は、帝王切開になることもあります。
帝王切開率や吸引分娩率の増加
40歳以上で初産の場合、帝王切開が必要となるケースは30代以下の初産の約2倍に増加するという報告もあります。
40歳以上の初産で帝王切開する割合は、3割と決して少なくない割合です。
帝王切開になるケースとしては、
- 母体の合併症によって妊娠の継続が難しくなり帝王切開になる
- 出産時間が長引いて帝王切開になる
などがあります。
さらに帝王切開後は、自然分娩に比べて母体の回復に時間がかかります。
年齢を重ねると回復までの時間が長くかかるため、親の手助けなどを求められる状態であると安心です。
妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病の上昇
杏林大学医学部の文献では、出産時の年齢が40歳を超すと、妊娠で高血圧になる妊娠高血圧症候群の発症頻度は約8%となり、35歳未満の妊婦のほぼ2倍となるという報告があります。
妊娠高血圧症症候群が重症化した妊婦は、
- 脳出血
- 原因不明のけいれん
- 死亡
の可能性が高くなる場合があるのです。
さらに妊娠して初めて糖尿病になる、妊娠糖尿病の発症頻度は、35歳以上では20~24歳の8倍、30~34歳の2倍も高くなるというデータもあります。
妊娠糖尿病は、
- 羊水過多
- 妊娠高血圧症候群
- 難産
- 新生児低血糖
- 黄疸
などの合併症に、母子がともにかかるリスクを高める原因になります。
前置胎盤になりやすい
35歳以上の妊娠では、30歳未満の妊娠の2倍、前置胎盤になる確率が高くなります。
前置胎盤とは、胎盤が通常よりも子宮の下の方に作られてしまい、子宮口を覆ってしまうことで赤ちゃんの出口を塞いでしまったり、胎盤が剥がれやすくなったりする状態です。
前置胎盤になると、帝王切開で出産する必要がある場合や、妊娠中に大量出血をする場合もあります。
初産と2人目以降ではリスクは違うの?
不妊や流産などの高齢出産のリスクは、初産か2人目以降の出産であるかに関係なく、年齢を重ねるほど上がります。
「1人目は自然妊娠できたから、2人目は少し時間を置いてから考えよう」と思う方もいるかもしれませんが、年齢が上がるほど無事に妊娠し出産することが難しくなるため、早めに妊活をスタートすることをおすすめします。
実際、筆者の友人は1人目を自然妊娠で出産しましたが、2人目はなかなか授からなかった方や、妊娠しても流産してしまった方もいました。
ただし分娩時のリスクに関しては、2人目以降の出産の方が下がる場合もあります。
2人目以降の出産では初産よりも分娩時間が短くなることが多いため、出産時に体力を消耗して帝王切開になるリスクは2人目以降の方が低くなる場合もあるのです。
高齢出産をする人の割合は実際どのくらいいるの?
高齢出産にはさまざまなリスクがありますが、昔に比べて高齢出産をする人の割合は増えています。
厚生労働省の平成30年度のデータによると、35歳以上の高齢出産で生まれた第一子の割合は全体の約20%を占めおり、決して少なくはないことがわかります。
さらに年齢層別に見てみると、
- 35~39歳で約17%
- 40~44歳は約4%
- 45歳以上が約0.2%
と、30代後半で出産する女性が多い傾向があります。
その理由には、
- キャリアを積んでから結婚を選択する女性が多くなった
- パートナーの男性が若い頃の収入では結婚に踏み切れない
などがあり、晩婚化が進んでいることが関係しています。
晩婚化が進んだことで、結婚後になかなか子供を授からないケースも増え、高齢出産になる場合も多いのです。
経験者が「そんなこと知らなかった」と感じた高齢出産のリアルとは?
データを見ると高齢出産にはいろいろなリスクがあることがわかりますが、実際に経験した人はどんなことを感じたのでしょうか。
ここからは、書籍「本当は怖い高齢出産 妊婦の4人に1人が35歳以上の時代」や一般の方のブログから、高齢出産のリアルな感想をお伝えします。
経験者が妊娠・出産前には知らなかった高齢出産の事実をを知ることで、「知らなかった」と後悔することのないようにしましょう!
衆議院議員の野田聖子さんの場合
野田聖子さんは、海外で卵子提供を受けて50歳で第一子を出産しています。
妊娠前は生理に異常がなかったので、とくに婦人科にお世話になることはなく、結婚して初めて産婦人科に行ったそうです。
そこではじめて「妊娠は35歳くらいまでに」と聞かされ、衝撃を受けたと言います。
学校では妊娠に適した時期を教えてもらう機会が一切なかったので、教えてもらっていたら人生計画が変わっていたと思うと語っています。
プロレスラーのジャガー横田さんの場合
45歳で出産したプロレスラーのジャガー横田さんは、自分は肉体的にも精神的にも若いと思っていて、高齢出産が大変なこととは思っていませんでした。
しかし結婚して1年半近く妊娠せず、はじめて検査を受けて、子宮筋腫がみつかったそうです。
そこではじめて医師に、「子宮筋腫があると妊娠が難しくなる」と言われショックを受けました。
妊娠できる確率は極めて低かったそうですが、体外受精で奇跡的に妊娠したといいます。
また出産では、子宮口がなかなか開かず難産となり、36時間もの長時間分娩になったそうです。
一般の経験者の場合
高齢出産を経験したママがブログで綴っていた内容から、出産前後で「そんなことは知らなかった」と感じたことを調査しました。
ここからはその内容の中から、事前に知っておくと役立つ内容をリストアップします。
- 結婚後すぐに子供を作らなくても、夫婦で不妊検査を受ければよかった
- 子育てが終わる前に自分の親の介護が始まってしまうことを意識できればよかった
- 教育費がかかる時期と老後資金を貯める時期が重なるので、お金を貯めておきたかった
- 若いうちにお金を貯蓄しておけばよかった
などの、不妊・介護・教育と老後の貯蓄などの問題が見えてきました。
高齢出産は妊娠から出産までのリスクを考えるだけでなく、ライフプランや資金の計画も大切であることがわかります。
今からでもできる!高齢出産のリスクを抑える自己管理方法
好きで高齢出産をしようとしてるわけではないのに、リスクだけ並べられたら、怖くて出産できないと感じてしまう人もいるでしょう。
たしかに高齢出産のリスクは、20代から30代前半の出産に比べて高くなりますが、リスクを低減させることもできますし、まったく何の症状もない人もいます。
そのためリスクを必要以上に怖がりすぎて、年齢を理由に子供をあきらめる必要はないのです。
リスクをきちんと知った上で、妊娠前や妊娠後の生活習慣を見直し、健康的に過ごせるように準備することが大切です。
そこでここでは、妊娠前後にできる自己管理方法をご紹介します!
妊娠前からできること
ここでは、妊娠前からできる自己管理方法をについて解説します。
これから高齢出産を検討している方は、ここでご紹介する自己管理方法の実践に加えて、病院と相談の上で万全の医療を受けられる環境を整えておくことが大切です。
葉酸をとる
神経管閉鎖障害を予防するために、妊娠前から食事やサプリメントで葉酸をとることが勧められています。
神経管閉鎖障害とは、赤ちゃんの脳や脊髄をつくる神経管が、通常であれば上部の脳側と下部の脊髄側の端が塞がった状態になるのですが、何らかの理由で神経管の上下が塞がらなくなった状態のことを言います。
神経管は妊娠してから6週で完成するので、妊娠がわかったときはすでに神経管が完成する時期になっています。
そのため、妊娠を希望する3カ月前から葉酸をとり始めるのがおすすめです。
また葉酸は、先天性の心疾患や、唇の一部・歯茎・上顎などが裂けてしまう口唇口蓋裂、自然流産などを減少させる報告もあります。
野菜ではブロッコリーや芽キャベツなどからとれる栄養素なので、妊娠前から食事のメニューに取り入れてみましょう。
お酒やタバコをやめる
タバコを吸っていると、男女ともに妊娠率が10%程度低下することがわかっています。
妊娠率上げるために、妊活を始める前からあなた自身がタバコをやめるのはもちろん、パートナーにもタバコをやめてもらった方がよいかもしれません。
また妊娠前にアルコールの摂取量が多いと、妊娠率が低下し、流産率が高まることもわかっています。
急に飲酒を完全にやめることが難しい方は、妊娠の可能性が低い月経中の飲酒が勧められています。
体力をつけ柔軟性をアップさせる
出産は体力が必要なので、妊娠前から体力をつけておくことは大切です。
体力を消耗し、帝王切開になるリスクを下げられます。
さらにヨガなどで骨盤周りが柔らかくなるようにストレッチしておくと、出産時に骨盤周りの筋肉が柔軟に動くようになり、出産の経過がスムーズになります。
肥満を予防する
肥満であると妊娠時に妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症を引き起こすリスクが高まるので、妊娠前からBMIの正常値内まで減量することをおすすめします。
BMIは身長と体重から肥満度を割り出すための数値で、これから紹介する計算式で簡単に計算できます。
BMI=体重kg÷(身長m×身長m)
日本肥満学会の判定基準では、BMIが18.5~25未満を正常値としています。
不妊検査を受ける
生理不順や生理痛などで悩まない限り、妊娠前に婦人科を受診する人は少ないかもしれません。
しかし先ほどお伝えした経験者の話のように、妊活をスタートして初めて不妊に気付くことも多いのです。
結婚した年齢が30歳を過ぎていた場合、結婚後に不妊検査を受けておくと安心です。
妊娠後にできること
妊婦検診をしっかりと受け、合併症の早期発見に努めましょう。
また葉酸の接種は14週まで行うと、赤ちゃんの先天性の疾患を予防する効果があるとの報告もあります。
リスクだらけに見える高齢出産にもメリットがある
年齢を重ねてきたことで積んだ経験が、高齢出産のメリットになることもあります。
たとえば、著書「本当は怖い高齢出産 妊婦の4人に1人が35歳以上の時代」では、これから紹介する3つのメリットがあるとしています。
- キャリアをある程度積んでいるので、出産しても仕事に復帰しやすい
- 職場の人脈ができていて、周囲が助けてくれやすい
- 経済的な余裕があるので子育てにゆとりができる
もちろん、すべての方に当てはまるわけではありませんが、高齢出産した女性は仕事のキャリアアップがしやすく、経済的な余裕があることでのびのびとした子育てができる可能性があります。
まとめ
高齢出産は25~29歳での出産に比べて、合併症や胎児が障害をもつリスク、帝王切開になるリスクなどが、高まることは事実です。
初産だけでなく、2人目以降の出産でもそのリスクは変わりません。
しかし現代社会では、女性が社会進出したことにより、女性もキャリアを積める時代です。
仕事を頑張った結果、高齢出産になったとしても、自分を責めたり出産を怖がり過ぎたりする必要はありません。
大切なことは、高齢出産のリスクをきちんと理解した上で、妊娠前後にできる自己管理をすることです。
事前の不妊検査や、バランスのよい食生活・適度な運動を心がけるなどの自己管理に努め、高齢出産に備えて心も体も健康に過ごしましょう!