育休が終わってから時短勤務を希望する人は、復帰した後の手取り額が気になるところですね。
時短勤務で給与が下がって、さらに社会保険料が天引きされると、手取りはどれくらい変わるのでしょうか。
一般的には給与が下がれば社会保険料も下がりますが、金額によっては下がらない、もしくはしばらくそのままです。
そのようなときは「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出すれば社会保険料を安くできるかもしれません。
この記事では、育児休業等終了時報酬月額変更届について詳しく解説します。
社会保険料が安くなるというメリットに加え、デメリットも紹介しますので、自分はどうするかの参考にしてください。
育児休業等終了時報酬月額変更届とは?
育児休業等終了時報酬月額変更届とは、育児休業が終わった時点での標準報酬月額を変更するための届けのことです。
厚生年金と健康保険の保険料は、給与額を基にした標準報酬月額によって決まります。
厚生年金は1~32等級、健康保険は1~47等級に分かれた等級表があり、標準報酬月額が当てはまる等級の保険料を支払います。
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出すると、育休後に下がった給与額の3ヶ月平均に基づいた標準報酬月額に改定が可能です。
ここからは、育児休業等終了時報酬月額変更届について具体的に説明していきます。
育休を終えた3歳未満の子供を育てている人が対象
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出できるのは、3歳未満の子を育てている人です。
もちろん、育児休業を取得した男性も対象となります。
対象者は以下の2つの条件を満たしたときに、標準報酬月額を改定できます。
- 育休前と改定後の標準報酬月額に1等級以上の差があること
- 育休が終了した当月含む3ヶ月間に支払基礎日数が17日以上の月がある
※特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上
給与の変動があったときの改定では3ヶ月とも支払基礎日数が17日必要ですが、育児休業等終了時報酬月額変更は1ヶ月でも17日以上の月があればOKです。
標準報酬月額は3ヶ月間の給与平均額で算出しますが、17日未満の月は除いて平均を出します。
育休終了から3ヶ月間の給与が下がっているなら、父親も育児休業等終了時報酬月額変更届の提出を検討してみましょう。
育児休業等終了時報酬月額変更届を出すメリットは?
続いては、育児休業等終了時報酬月額変更届を出すメリットを、実際の給与額を例に出しながら説明します。
育休前より社会保険料を安くできる
育児休業等終了時報酬月額変更届を出す最大のメリット。
それは、社会保険料を安くできることです。
実際にどれくらい安くなるのか、総支給額を保険料額表に当てはめて、標準報酬月額と等級、保険料を確認してみましょう。
総支給額とは、基本給や通勤手当、残業代などをすべて含めた金額のことです。
総支給額が146,000円~210,000円の標準月額報酬と保険料は以下のとおりになります。
総支給額 | 標準報酬月額 | 等級 | 厚生年金保険料 | |
全額 | 折半額 | |||
146,000~155,000 | 150,000 | 9 | 27,450 | 13,725 |
155,000~165,000 | 160,000 | 10 | 29,280 | 14,640 |
165,000~175,000 | 170,000 | 11 | 31,110 | 15,555 |
175,000~185,000 | 180,000 | 12 | 32,940 | 16,470 |
185,000~195,000 | 190,000 | 13 | 34,770 | 17,385 |
195,000~210,000 | 200,000 | 14 | 36,600 | 18,300 |
参照:令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表
総支給額 | 標準報酬月額 | 等級 | 健康保険料 | |
全額 | 折半額 | |||
146,000~155,000 | 150,000 | 12 | 14,805 | 7,402 |
155,000~165,000 | 160,000 | 13 | 15,792 | 7,896 |
165,000~175,000 | 170,000 | 14 | 16,779 | 8,389 |
175,000~185,000 | 180,000 | 15 | 17,766 | 8,883 |
185,000~195,000 | 190,000 | 16 | 18,753 | 9,376 |
195,000~210,000 | 200,000 | 17 | 19,740 | 9,870 |
※協会けんぽ東京支部の保険料率で計算しています。
参照:令和2年9月分(10月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
たとえば、育休前の給与が200,000円で、育休明けの給与が150,000円になったとしましょう。
厚生年金保険料と健康保険料を合わせて、手取り額にどれくらいの差が出るのかを以下にまとめてみました。
標準報酬月額が15万円で算出されている場合 | |
総支給額 | 150,000円 |
健康保険 | 7,402円 |
厚生年金保険料 | 13,725円 |
手取り金額 | 128,873円 |
標準報酬月額が20万円で算出されている場合 | |
総支給額 | 150,000円 |
健康保険 | 9,870円 |
厚生年金保険料 | 19,740円 |
手取り金額 | 120,390円 |
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出して、下がった給与で保険料を算出すると、育休前より保険料を8,000円ほど安くできます。
また、実際は表の手取り額からさらに雇用保険と所得税が引かれます。
保険料の金額を抑えて、少しでも手元にお金が入るようにしたいところですね。
随時改定の条件を満たさなくても標準報酬月額を改定できる
標準報酬月額は、「定時決定」として1年に1回見直されます。
7月に4月~6月の総支給額で見直され、新たな標準報酬月額が9月から翌年8月まで適用される形です。
そのほか「随時改定」として、給与に変動があったときにも見直されます。
しかし、随時改定の場合は2等級以上の差が出ないと見直しの対象となりません。
育休明けに給与が下がっていても、2万円ほど下がっていなければ保険料は以前のままだということです。
また、随時改定の場合、給与額が変わった月から3ヶ月とも、支払基礎日数が17日以上必要です。
特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、必要日数が11日以上となります。
育児休業等終了時報酬月額変更届は随時改定よりも条件がゆるいため、随時改定の条件を満たさなくても提出できます。
育児休業等終了時報酬月額変更届のデメリットって?
社会保険料が安くなるという大きなメリットがある育児休業等終了時報酬月額変更届ですが、提出にはデメリットもあります。
将来もらえる年金が減る
支払う厚生年金の保険料が少なくなるということは、その分、将来的にもらえる年金が減るということです。
しかし、養育期間標準報酬月額特例制度を利用すると、保険料が安くなっても年金額をそのままにすることができます。
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出すれば、育休明けに下がった給与額を基にした標準報酬月額に改定できました。
養育期間標準報酬月額特例制度では、保険料が下がっても育休前の保険料を支払ったと見なしてくれます。
標準報酬月額の改定と同じく、3歳未満の子供を育てていれば男性でも申請可能です。
養育期間標準報酬月額特例申出書と育児休業等終了時報酬月額変更届は一緒に提出しておきましょう。
出産手当金や傷病手当が少なくなる
厚生年金に関しては、養育期間標準報酬月額特例制度という特例がありましたが、健康保険には特例がありません。
出産手当金や傷病手当は健康保険から支給されますが、金額は標準報酬月額で算出されます。
つまり、育児休業等終了時報酬月額変更届を提出して標準報酬月額を改定すると、出産手当金や傷病手当の金額も下がるということです。
妊娠や出産の予定がある場合、出産手当金のことも考えて標準報酬月額を改定した方がよいのかを検討しましょう。
ただし、育児休業等終了時報酬月額変更届を出さなくても、随時改定の対象となったり定時決定の時期になったりした場合は標準報酬月額が見直されます。
申請するときに注意すること
最後に、育児休業等終了時報酬月額変更届の提出を検討するときの注意点をお伝えします。
それは、育児休業等終了時報酬月額変更届を提出する際には、自分で申し出る必要があるということです。
標準報酬月額の定時決定や随時改定の場合、会社が自動的に手続きを行ってくれます。
そのため、特に何かをする必要はありません。
しかし、育児休業等終了時報酬月額変更届の場合は、本人の申し出が必要です。
申し出を受けた会社は、変更届を日本年金機構に提出します。
標準報酬月額を改定するかどうか聞いてくれる会社もありますが、対象者が多かったり繁忙期だったりすると説明が漏れるケースもあるでしょう。
育児休業等終了時報酬月額変更届を検討している場合は、会社からの声掛けに頼らず、自分自身で積極的に動くことも大切です。
まとめ
育休明けに時短勤務を希望する場合、休業前よりも給与が下げることがほとんどでしょう。
その場合、社会保険料が育休前の基準のままだと、手取り金額がかなり下がってしまいます。
厚生年金と健康保険の保険料は、給与額を基にした標準報酬月額で決まります。
育児休業等終了時報酬月額変更届を提出すれば、育児休業が終わってからの給与金額を基準とした標準報酬月額に改定できます。
そうすると、給与が200,000円から150,000円に下がった場合においては、育休前の社会保険料より8,000円ほど安くなります。
保険料が下がると将来的にもらえる年金額も下がるため、養育期間標準報酬月額特例制度を利用して年金額が下がらないようにしましょう。
ただし、健康保険には特例がないため、標準報酬月額が下がると、出産手当金や傷病手当が少なくなる可能性があります。
妊娠や出産の予定がある場合には、標準報酬月額を改定するかどうか、慎重に検討してください。
また、育児休業等終了時報酬月額変更届の提出には、本人の申し出が必要です。
会社の担当者からのかアナウンスがなくても、自分で提出したいと声を掛けるようにしましょう。