せっかく妊娠しても、出産まで至れない…不育症は、子供を望む女性たちにとって深刻な悩みの1つです。
「不妊」という言葉は世間に浸透してきましたが、「不育」は「不妊」とは少し違います。
この記事では不育症について、定義、原因、治療法、妊娠したあとの過ごし方まで、詳しく説明していきます。
妊娠しても流産してしまう…私って不育症?不育症とは何か
不育症とは、次のようなことにより、子供を得られない状態を言います。
- 反復流産(2回流産を繰り返す)
- 習慣流産(3回以上流産を繰り返す)
- 死産
- 早期新生児死亡(生後1週間以内に赤ちゃんが死亡すること)
流産とは、妊娠22週未満の分娩のことを言います。
不育症は反復流産、習慣流産に、死産や早期新生児死亡を含めたものなのです。
不育症でも出産できる?不育症の女性が出産できる可能性とは
自分が不育症かもしれないと思ったら、「もう一生子供を育てられないのかな?」と、不安でいっぱいの気持ちになってしまうと思います。
ですが、そこまでに悲観的になることはありません。
不育症であっても、70%以上の方が出産し、子供を授かることができたと言われています。
そして、実は妊娠初期の流産の原因の多くは、受精卵に偶然起こった染色体異常です。
この偶然起こった染色体異常のように、母体にリスクとなるような要因がない場合は、特に治療などを行わなくても次の妊娠は問題なく進んでいく可能性が十分あります。
ただし、次に説明する「リスク因子」がある人は、場合によっては治療が必要になります。
不育症の原因はある?「リスク因子」について
不育症は、検査をしても約半数の方は原因がわからないと言われています。
ですが、流産のリスクが高まるいくつかの要因が存在し、そういったリスク因子によって不育症になっている場合もあります。
ただし、リスク因子があるからといって必ずしも不育症になるわけでもないので、不育症の原因という言い方ではなく、リスク因子という言い方をするのが一般的です。
ここでは、5つのリスク因子を紹介します。
夫婦の染色体異常
夫婦どちらかになんらかの染色体構造異常がある場合、流産を繰り返すことがあります。
染色体とは、私たちの体をつくる細胞の核の中にある、遺伝情報が組み込まれた棒状の物質です。
人間の染色体は46本あり、父親から受け継ぐものと母親から受け継ぐもの、2本で1対となっています。
夫婦が2人とも健康であったとしても、どちらか、もしくは両方になんらかの染色体に異常があったとしたら、卵や精子ができるときに染色体の本数や状態に過不足が生じて、流産の原因になることがあります。
子宮形態異常
子宮の形が正常と違った場合、流産や早産を繰り返すことがあります。
子宮の形によっては受精卵が着床しづらい場合があり、胎児や胎盤を圧迫してしまうことによって流産や早産が引き起こされることがあるからです。
子宮形態異常は双角子宮(そうかくしきゅう)、中隔子宮(ちゅうかくしきゅう)など、形によって名称が分かれています。
内分泌異常
内分泌異常の病気があると、流産のリスクが上がります。
内分泌異常とは、ホルモンバランスがくずれることによって起こる甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症などのいくつかの病気を指しています。
甲状腺は、体全体の新陳代謝のためのホルモンを出すところです。
喉仏の両側に1つずつあり、真ん中でつながっています。
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症は、この甲状腺ホルモンに異常が起こる病気です。
あとは、インスリンというホルモンの働きに異常が出て起こる病気の糖尿病も、内分泌異常に含まれます。
また、これらの内分泌疾患は、流産までいかなくても早産などの妊娠時の合併症のリスクも高いので、妊娠中は特段の注意が必要です。
凝固異常
凝固異常の体質を持っていることも、不育症のリスク因子の1つです。
妊娠中に胎盤に血栓ができてしまうことで、胎児の発育異常や胎盤の異常が起こり、流産や死産を繰り返すことがあります。
血栓ができてしまう理由としては、血液を固めて血を止める役割がある血液中の凝固因子に、何らかの異常が起きていることがあげられます。
凝固因子に異常を生じさせている可能性があるのは、次のような体質です。
- 抗リン脂質抗体症候群
- プロテインS欠乏症
- プロテインC欠乏症
- 第Ⅻ因子欠乏症
高齢妊娠
流産は、妊娠の10~20%の頻度で起こると言われていますが、母体の年齢が上がるほどに頻度が増えていき、40歳代の流産は50%という報告もあります。
これは、加齢とともに胎児の染色体異常が増えていくからです。
高齢での妊娠は、妊娠すること自体が難しくもありますが、出産までの経過も注意が必要です。
治療すれば改善する可能性も!リスク因子ごとの治療法
5つのリスク因子のうち、高齢妊娠については年齢を見れば明らかですし、それ以外の4つについても検査ではっきりさせることができます。
自分にリスク因子があることがわかれば、治療して状態を改善させられるかもしれません。
4つのリスク因子の治療法の有無や内容について、説明します。
夫婦の染色体異常
染色体は、残念ながら治療して変えられるものではないので、この問題を解決する治療法はありません。
ですが夫婦の染色体異常がわかった場合は、充分な遺伝カウンセリングを行い、染色体正常児が生まれる可能性などの説明を受け、今後の方針についてよく話し合う必要があります。
均衡型転座というタイプの染色体異常では、最終的に60~80%が出産に至るということも最近わかってきました。
悲観しすぎず冷静に、夫婦で対応を決めて行ってください。
子宮形態異常
子宮の形態異常は、手術によって治療することができます。
ただし、子宮の形に異常があってもそれが健康に直接害を及ぼすわけではないので、手術が必ずしも必要とは限りません。
子宮形態異常はその形態異常の種類によって手術の有効性や術式が全く異なります。
形態異常の種類をしっかり判断し、本当に手術が必要なのか、他に優先するべき治療がないかなど、総合的、専門的に考えていく必要があります。
内分泌異常
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症や糖尿病などの内分泌異常がある場合も、治療することができます。
むしろ、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症が無治療の状態での妊娠成功率は25.0%と低率であるともいわれているので、きちんと治療して機能が正常になってから妊娠することが大事です。
糖尿病についても、十分コントロールしたうえで妊娠することが望ましいです。
甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病いずれも、妊娠後も引き続き治療が必要になっていきます。
凝固異常
抗リン脂質抗体症候群によって血栓ができやすくなってしまう人には、低用量アスピリン療法という治療があります。
アスピリンのほかに、抗凝固薬のヘパリンを併用して使うこともあります。
アスピリンとは解熱鎮痛剤ですが、このアスピリンを少量服用すると、抗凝固作用があることがわかってきたのです。
しかし、アスピリンやヘパリンが、血栓ができやすい体質により不育症になっている人に対して有効だという根拠はあるのですが、大規模な調査結果が無く、治療の必要性や有効性については専門家の間でもいまだに結論が出ていません。
とはいえ、抗リン脂質抗体症候群以外の凝固異常でも、アスピリン療法で良好な結果が出たという報告はあります。
妊娠した不育症の人が、出産までに気をつけること
無事、妊娠することができたら、主治医の先生に悩みやわからないことをよく相談し、不育症や自分のリスク因子の有無、種類について、きちんと説明を受けることが大切です。
そして次に挙げるような、一般的に妊娠中に良くないと言われるようなことは控えながら過ごしてください。
ポイント
- 喫煙
- アルコールの摂取
- 激しい運動
- 重いものを持つこと
- 冷え
過去に流産経験があると、妊娠中はとてもナイーブになってあれこれ不安になりすぎたり、落ち込んでしまうこともあるかもしれません。
そんな時はストレスをためこまず、不育症の相談窓口を利用するなどして相談してみて下さい。
妊娠中のカウンセリングや相談対応を行った方が、ストレスが軽減されて妊娠成功率が上がるということは、厚生労働科学研究班によっても明らかにされています。
ストレスのない妊娠生活を送ることが、流産率を下げるためにも大事なことです。
まとめ
不育症とは、妊娠はするけれど、2回以上の流産、死産もしくは赤ちゃんが生後 1 週間以内に死亡する早期新生児死亡によって子供を得られない状態のことです。
しかし、不育症であっても70%以上の方が出産したと言われており、そこまで悲観的になることはありません。
不育症は、検査をしても約半数の方は原因がわからないと言われていますが、流産のリスクが高まる5つのリスク因子によって、不育症になっている場合もあります。
リスク因子は、夫婦の染色体異常、子宮形態異常、内分泌異常、凝固異常、高齢妊娠の5つがあり、1部は治療によって改善する可能性があります。
不育症の人が無事妊娠出来たら、一般的に妊娠中に良くないといわれることは控え、不育症についての理解を深めておくことが大切です。
そして、妊娠中はとてもナイーブになってあれこれ不安になってしまうかと思いますが、できるだけストレスをためないように生活することが、妊娠成功率を上げるためにも重要です。