成長途中で未発達な子どもの脳は、大人ほど眠ることが上手ではありません。
生活リズムの乱れや病気の弊害による睡眠不足・過度な眠気が深刻な睡眠障害を引き起こしてしまう可能性が高いんです。
もしお子さんが夜中に異常な行動を繰り返す、いびきや不規則な呼吸をしている、日中の活動に支障をきたすほど眠れない場合、睡眠障害になっている可能性があります。
この記事では、子供の睡眠障害の主な症状から、病院受診の目安、さらに家庭でもできる睡眠障害の改善法などを紹介していきます。
気になる子供の睡眠障害、まずは主な症状をチェック!
睡眠障害と聞くと、なかなか夜寝付けない、眠れないのかな?と思う方も多いと思いますが、実はそれだけではありません。
子供の睡眠障害には主に以下のような症状が挙げられます。
ポイント
- 布団に入ってから1時間以上起きている
- 夜中に何度も目が覚める
- 睡眠時間が6時間以下ととても短い
- 朝に弱く、日中も眠気が取れない
- 寝ているのに動きが激しい、出歩いてしまう
- いびきや歯ぎしり、寝言が激しい
- 無呼吸になる
こういった症状は成長途中の子供であれば、多かれ少なかれ誰にでも起こりえます。
しかし、上記の症状のうちひとつ、もしくはいくつかが慢性的に続き、日常生活や身体の状態に支障が出ている場合は睡眠障害の疑いがあります。
子供の平均的な睡眠時間・睡眠状態とは?
実際に子供の平均的な睡眠時間を年代別に見てみましょう。
ポイント
- 乳児期(0~1歳)…13~17時間
- 幼児期(1~5歳)…11~14時間
- 小児期(6~9歳)…9~13時間
- 青年期(10歳~)…8~10時間
ただし、睡眠時間は個人差が非常に大きいため、多少平均から離れていたとしても健康で日中の活動に問題がなければあまり影響はありません。
また、子供が長時間続けて眠ることができるようになるのは脳がある程度発達した2歳半~3歳以降です。
それ以前ではまだ脳が発達しきっていないため、レム睡眠とノンレム睡眠が上手に切り替えられず数時間ごとに目が覚めてしまいます。
乳児~幼児期にかけてなかなか寝付かない、寝付いてもすぐ目覚めてしまう子供が多いのはこのためです。
とはいえ、睡眠障害ではなく一般的な脳の発達によるものであれば成長と共に自然に落ち着いていくので心配いりません。
子供特有のものもある、睡眠障害の5つの主な症状
睡眠障害には5つの症状があります。
ポイント
- 眠れない、途中で起きてしまう
- 寝すぎてしまう、夜寝ているのに日中も眠い
- 生活リズムが整わず昼と夜の区別がない
- 寝ている間に異常な行動を取る
- 呼吸に異常が生じる(無呼吸、いびきなど)
それぞれ症状別に説明していきます。
症状①眠れない、途中で起きてしまう(不眠症)
睡眠障害の中でも最もよくあるのが、夜になっても眠れない、もしくは寝ている間に何度も起きてしまうタイプのものです。
これらは大きなくくりで不眠症と呼ばれており、乳児から幼児の場合は夜泣きや日中の過度な興奮、保護者と離れることによる不安や恐怖のせいで起こる分離不安、朝起きる時間が遅かったなどが理由にあげられます。
就学年齢の場合は、寝る直前までスマホやゲームなどをしていたため脳が覚醒状態のままになっており眠れない、眠りが浅くなるといった理由があげられます。
また、稀に発達障害や心の病気(うつ、統合失調症など)が起こす二次障害の場合もあります。
症状②寝すぎてしまう、夜寝ているのに日中も眠い(ナルコレプシー)
不眠症とは逆に、夜寝ているにもかかわらず日中も活動に支障が出る程眠気が強い場合、ナルコレプシーと呼ばれる睡眠障害の可能性があります。
10代の1000人から2000人に1人の割合で発症するといわれていて、日中耐えがたい眠気に襲われ、本人も気づかないうちに眠ってしまうことが一日に何度も続きます。
脳にある神経細胞の働き、もしくは頭部の外傷によって引き起こされると考えられており、病院での治療が必要です。
また、ナルコレプシーより発症は稀ですが、突発性過眠症、反復性過眠症といって10時間以上の睡眠が一時的に、もしくは数カ月に渡って反復して繰り返される症状の場合もあります。
症状③生活リズムが整わない(昼夜逆転・睡眠リズム障害)
人間は、朝日を浴びて起床し夜眠ることで体内時計を毎日調整し生活しています。
この体内時計がうまく調整されないと、生活リズムが整わず昼夜逆転、もしくは睡眠のリズムが狂ってしまい眠りたいときに眠れない、いきなり眠くなってしまうといった睡眠リズム障害に陥る可能性があるんです。
生活リズムが昼夜逆転しているだけの場合は、朝起きて夜眠るように生活を整えていくことで改善されますが、睡眠リズム障害の場合はそうはいきません。
体内時計は光、食事、外からの光によって調整されますが、それらの機能に疾患がある場合は薬物療法などの治療対象になります。
症状④寝ている間に異常な行動を取る(夜驚症・夢遊病・睡眠時随伴症)
眠りについたと思ったら、突然大声をあげたり歩き回ったり、まるで起きている時のように激しく動く…そういった症状も睡眠障害の一種です。
特に幼児~少年期に多いのが、いきなり大声で叫びながら走り出す、悲鳴を上げて動き回るといった症状が特徴の夜驚症と呼ばれる睡眠障害です。
近年では睡眠時驚愕症とも呼ばれており、女子より男子に多く、まるで覚醒しているように見えますが実際は覚醒していません。
他にも、寝ている間に歩き回る、冷蔵庫の食べ物を食べる、高いところから飛び降りる、押し入れや部屋の隅に排尿するなどの異常行動を起こす、夢遊病(睡眠時遊行症)という症状もあります。
どちらもノンレム睡眠中に生じる睡眠障害と言われていますが、具体的な治療方法などは今のところありません。
症状によっては薬物治療となる場合もあるようです。
また、夜足がムズムズしてどうしても動かしたくなり、そのせいで睡眠が妨げられてしまう睡眠時随伴症に関しては、鉄欠乏が背景にあり、鉄不足を解消することで症状が落ち着く場合があります。
症状⑤呼吸に異常が生じる(いびき、無呼吸症候群)
子供が毎日のようにいびきをかいている場合は、扁桃腺、もしくは喉奥にあるアデノイドと呼ばれる部位の肥大や、アレルギー性鼻炎などの鼻づまりによるものが大半です。
扁桃腺やアデノイドが肥大しすぎると気道が狭くなり、より酸素を取り込むため鼻呼吸から口呼吸となり、いびきが発生します。
狭くなった気道で無理やり呼吸しつづけると、肋骨の真ん中がへこむ胸骨変形や、喉の肥大による顔の下垂化を引き起こしてしまいます。
肥大しすぎた扁桃腺やアドノイドは、睡眠中に呼吸を何度も止めてしまう無呼吸症候群を引き起こすなど、大変危険な存在です。
これらの症状は、手術で肥大した部分を切除し気道が確保されることで改善します。
睡眠障害が子供の心と体にもたらす影響
十分な睡眠がとれないと集中力の低下、情緒が安定しない、疲れが取れない、成長ホルモンが正常に分泌されないため、成長の妨げになるなど、心と体に様々な弊害が起きてしまいます。
さらに、日中の活動が十分にできないせいで、勉強についていけない、人間関係がうまくいかない、といった理由からうつや不登校といった二次障害を併発してしまうケースも少なくありません。
睡眠障害の多くは、
ポイント
- 生活リズムを整える(朝早く起こし日中は外で運動する、夜は部屋を暗くするなど)
- 寝る前に脳を休ませる(スマホやゲームをしない、照明を落とす)
- 成長を待つ
といったことで改善されていくので、「うちの子睡眠障害かも?」と思ったら、子供の年齢に合わせてできる範囲で親がサポートしてあげることが大切です。
子供の睡眠障害には病気や発達障害が隠れている可能性もある
実は、睡眠障害の背景に別の病気や発達障害などがある場合もあります。
特に睡眠障害は発達障害の二次障害として併発することが多く、自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の場合は定型発達の子供と比べると睡眠障害の頻度が約2倍以上といわれています。
なぜ発達障害の子供が睡眠障害を併発しやすいのか、理由は解明されていませんが、
ポイント
- 眠気を引き落こすホルモン、メラトニンが分泌されにくい
- 覚醒状態から眠っている状態への切り替えがうまくできない
- 睡眠と覚醒の調整を行う脳のネットワーク機能に異常をきたしている
- 光や音に過剰に反応する感覚過敏のせいで寝つきが悪い、すぐに目覚めてしまう
など様々な理由が複雑に絡みあって併発していると考えられているようです。
また、生活リズムが長い間崩れたまま、慢性的な寝不足、ストレス、肥満などから自律神経失調症を引き起こしてしまう可能性もあります。
子供の睡眠障害、病院を受診する目安は?
子供は成長の過程で、夜泣きや頻繁な覚醒などを繰り返します。
一時的なものであれば問題はありませんが、同じような症状が改善する気配もなく1カ月以上続く場合は一度受診してみることをおすすめします。
ただし、いびきや無呼吸症候群の場合は、早期発見・早期治療が重要です。
寝ている時のいびきや胸の動きを動画に撮って、できるだけ早く受診をしてください。
受診する科は症状によって違う
扁桃・アデノイドの肥大による無呼吸症候群やいびきの場合は耳鼻咽喉科を、日中のストレスや心理的要因が原因の場合は精神科を受診しましょう。
どちらも近くにない場合は小児科を受診して、医師に判断を仰いでください。
家庭でもできる!睡眠障害の改善法
子供の心と体の成長には、良質な睡眠が不可欠です。
生活リズムの乱れによる睡眠障害であれば、ある程度は家庭での取り組みと親のサポートで改善することができます。
ここでは、家庭でできる睡眠障害の改善法について説明していきます。
改善法①毎朝同じ時間に起こす
特に就学・就園前の幼児の場合、寝ているのに起こすと機嫌が悪いから、夜寝るのが遅かったから…などの理由で、自然に起きてくるまで起こさない、という家庭も多いと思います。
しかし、起きるのが遅くなればそれだけ身体のリズムが目覚めるのも遅くなり、入眠もそれに合わせて遅くなっていってしまいます。
毎日同じ時間に入眠させるためには、まず毎朝同じ時間に起こす必要があるんです。
改善法②子供が眠気を感じてから布団に入れる
同じ時間に眠らせるために、眠気に関係なく就寝時間になったら布団に入れるのも一つの手ですが、そうすると子供は「眠くないから、布団に入ってもどうせ寝れない」という否定的な心を抱いてしまうようになります。
また、眠くない子供の寝かしつけは時間も手間もかかるので親のストレスにもなり、どちらにしても負担が強く良いことはありません。
寝かせたい時間になっても子供が眠くないようであれば、部屋を暗くして、ソファーの上など眠りやすい場所で過ごさせましょう。
また、子供が自然に夜眠くなるように日中を過ごすことも大切です。
改善法③眠気を誘うホルモンを分泌させやすくする朝食を食べる
トリプトファンという栄養素は、体内に摂取されてから約14時間後にメラトニンという眠気を誘発するホルモンに変化します。
夜寝かせたい時間から逆算して14時間前にトリプトファンを多く含む朝食を取ることで、スムーズな入眠を目指せます。
トリプトファンを多く含む食材は
ポイント
- 大豆製品(味噌、納豆、豆腐、豆乳など)
- バナナ
- 乳製品(ヨーグルト、牛乳、チーズなど)
- 卵
などです。
朝ご飯のメニューを豆腐の味噌汁と納豆ご飯、もしくはチーズをのせたパンにバナナと牛乳などにすることで、効率よくトリプトファンを摂取できます。
例えば夜の8時には寝かせたい場合、朝の6時に上記のような食材を含む食事をするのが理想的です。
改善法④就寝前の行動を決めておく
人間は決まった行動を順にこなすことを繰り返していくと、だんだんと行動すること自体で気分が安定し、心が安らぐようになります。
決まった行動の順番のことをルーチンワークと言い、就寝前に取り入れることで安心してリラックスした状態のまま眠りにつくことができます。
例えば、お風呂のあとに歯磨きをして、絵本を読んで電気を消して就寝、といった一連の流れをあらかじめ決めておいて、毎日眠る前の習慣として実行してみてください。
乳児や幼児なら、子守歌や最後に読む絵本を決めておくのもいいでしょう。
もうすぐ眠るんだな、と心の準備を促してあげることが大切です。
まとめ
睡眠障害にはなかなか眠れない不眠症、寝すぎてしまうナルコレプシー、子供特有の夜驚症など様々な種類があります。
十分な睡眠がとれないと集中力の低下、疲れが取れない、成長ホルモンが正常に分泌されないため成長が妨げられるなど、様々な弊害が起きてしまいます。
また、多くの睡眠障害は生活リズムの乱れから生じていますが、まれに発達障害や機能不全といった別の病気を理由に併発している場合があります。
生活リズムの乱れから生じている場合は家庭でもある程度改善が可能ですが、病気を理由に併発している場合や、いびき、無呼吸症候群などの場合はできるだけ早く病院を受診しましょう。